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東京地方裁判所 平成9年(行ウ)163号 判決 1998年9月22日

原告

新住宅工務株式会社

右代表者代表取締役

進次也

右訴訟代理人弁護士

丸島俊介

湯川二朗

右訴訟復代理人弁護士

渡部典子

被告

東京都文京都税事務所長

松島宏明

右訴訟代理人弁護士

半田良樹

右指定代理人

矢野照雄

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、これを一〇分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第一  原告の請求

一  被告が原告に対し平成六年一〇月二八日付けでした、別紙物件目録記載の各土地に係る平成六年度分の特別土地保有税の更正処分及び過少申告加算金賦課決定(ただし、いずれも平成一〇年三月一三日付け減額更正処分及び過少申告加算金変更決定により減額された後のもの)を取り消す。

二  被告が原告に対し平成七年四月二七日付けでした、同目録記載の各土地に係る平成六年度分の特別土地保有税の納税義務を免除しない旨の処分(ただし、右減額更正処分及び過少申告加算金変更決定により減額された納税義務に係る部分を除く。)を取り消す。

第二  事案の概要

本件は、担保権の設定された土地を売渡担保により取得し、これを第三者に賃貸して営業用駐車場として使用させていた原告が、被告に対し、右土地に係る地方税法(以下「法」という。)附則三一条の五に規定する特別土地保有税(以下「ミニ保有税」という。)について、その取得価額に基づき税額を零円として申告をするとともに、法附則三一条の五第二項、法六〇三条の二第一項に基づき納税義務免除認定申請をしたところ、被告が、右土地の取得が法五九三条二項に規定する「著しく低い価額による土地の取得」に当たるとして、法附則三一条の五第二項、法五九三条二項及び法施行令五四条の三四第二項一号により、その取得の時における右土地の取得のために通常要する価額を取得価額とみなし、これに基づいて納付すべき税額を算出して原告に対する更正処分及び過少申告加算金賦課決定を行い、さらに、右土地が納税義務免除の対象となる土地とは認められないとして、右土地に係るミニ保有税の納税義務を免除しない旨の決定をしたため、原告がこれらの処分を不服としてその取消しを求めている事案である(なお、右土地に係るミニ保有税については、本訴提起後、減額更正処分及び過少申告加算金変更決定がされているため、原告は、当初の更正処分及び過少申告加算金賦課決定に関しては、右減額更正処分等により減額された後のものについて、また、納税義務を免除しない旨の処分に関しては、右減額更正処分等により減額された納税義務に係る部分を除いたものについて、その取消しを求めているものである。)。

一  関係法令の定め

1  ミニ保有税の課税

法附則三一条の五第一項によれば、平成三年度以降の各年度の初日の属する年の一月一日において、同項所定の区域内に所在する土地で、昭和六三年四月一日から平成五年一二月三一日までの間に当該土地の所有者が取得したもののうち、地方自治法二五二条の一九第一項の市の区(東京都の特別区の存する区域にあっては、特別区)の区域に所在する一団の土地の面積が二〇〇平方メートル以上である土地など、法附則三一条の五第一項各号に該当する土地に対しては、法五九五条の規定にかかわらず、当該土地の所在する市(東京都の特別区の存する区域にあっては、東京都。以下同じ。)において、当該取得がされた日から起算して二年を経過した日の属する年の翌年の四月一日からその翌年の三月三一日までを初年度とする一〇年度分に限り、特別土地保有税(ミニ保有税)を課するものとされている。この場合、法第三章第八節の規定中、土地に対して課する特別土地保有税に関する規定(法五八五条三項の規定を除く。)が準用される(法附則三一条の五第二項)。

2  ミニ保有税の課税標準

(一) 法によれば、ミニ保有税の課税標準は、土地の取得価額とされているが(法附則三一条の五第二項、法五九三条一項)、無償又は著しく低い価額による土地の取得その他特別の事情がある場合における土地の取得で政令で定めるものについては、当該土地の取得価額として政令で定めるところにより算定した金額が課税標準となる土地の取得価額とみなされる(法附則三一条の五第二項、法五九三条二項)。

(二) 法施行令は、法五九三条二項の規定を受けて右の取得価額とみなされる金額について規定しており、無償又は著しく低い価額により取得された土地については、右金額は、その取得の時における当該土地の取得のために通常要する価額とされている(法施行令五四条の三四第二項一号)。

3  ミニ保有税の納税義務の免除

(一) 法によれば、市町村は、土地の所有者等が所有する土地が次に掲げる土地のいずれかに該当し、かつ、当該土地の利用が当該市町村に係る土地利用基本計画、都市計画その他の土地利用に関する計画に照らし、当該土地を含む周辺の地域における計画的な土地利用に適合するものであることについて市町村長(東京都の特別区の存する区域にあっては、法七三四条一項により東京都知事。なお、法三条の二及び東京都都税条例(以下「都税条例」という。)四条の三第一項により特別土地保有税の賦課徴収に関する事項等は、都税事務所長に委任されている。)が認定した場合には、当該土地に係るミニ保有税の納税義務を免除するものとされている(法附則三一条の五第二項、法六〇三条の二第一項)。

(1) 事務所、店舗その他の建物又は構築物で、その構造、利用状況等が恒久的な利用に供される建物又は構築物に係る基準として政令で定める基準に適合するものの敷地の用に供する土地(次の(2)に該当するものを除く。同項一号)

(2) 工場施設、競技場施設その他の施設(建物、構築物その他の工作物及びこれらと一体的に利用されている土地により構成されているものに限る。以下「特定施設」という。)で、その整備状況、利用状況等が恒久的な利用に供される特定施設に係る基準として政令で定める基準に適合するものの用に供する土地(同項二号)

(二) そして、右のうち、恒久的な利用に供される特定施設に係る基準は、法施行令五四条の四七第二項により、次のとおり定められている。

(1) その整備状況が同一又は類似の用途に供される施設について通常必要とされる整備の水準と同程度の水準に達しているものであること(同項一号)。

(2) その利用が相当の期間にわたると認められること(同項二号)。

(3) その効用を維持するため通常必要とされる管理が行われると認められること(同項三号)。

(三) なお、当該土地が納税義務免除の対象となる土地であるか否かの判定は、ミニ保有税を申告納付すべき日の属する年の一月一日(以下「基準日」という。)の現況によるものとされている(法附則三一条の五第二項、法六〇三条の二第七項、五八六条四項)。

二  前提となる事実

(以下の事実のうち、証拠等を掲記したもの以外は、当事者間に争いがない事実である。)

1  土地の取得

原告は、平成三年一月三〇日、株式会社寿寿企画(以下「寿寿企画」という。)に対し、三五〇〇万円を貸し付け、同社との間で、その担保として、同社の所有する別紙物件目録記載の各土地(以下「本件各土地」という。)を次のとおりの約定で売渡担保により取得する旨の契約(以下「本件売渡担保契約」という。)を締結し、本件各土地を取得した。なお、本件売渡担保契約に伴う所有権移転の登記手続は、その契約成立に先立って同月八日に行われた(甲六ないし一一、一三、一四、弁論の全趣旨)。

(一) 売買代金額は三五〇〇万円とする。

(二) 設定済みの次の担保権はそのままとする。

(1) 一番根抵当権    根抵当権者・株式会社富士銀行、極度額三億円

(2) 二番抵当権 抵当権者・南九州クレジット株式会社、債権額一五億円

(3) 三番抵当権     抵当権者・堀井仙太郎ほか三名、債権額二億円

(4) 四番抵当権      抵当権者・大都工業株式会社、債権額三億円

2  本件各土地の駐車場としての利用

原告は、平成五年一一月二六日、ヒューヴェル有限会社(以下「ヒューヴェル」という。)に対し、営業用駐車場設置及び普通建物所有の目的で、賃料月額二〇万円、期間五年間の約定により本件各土地を賃貸し、同社は、約三週間の工事期間と約六九〇万円の費用をかけて、本件各土地を砂利敷きの駐車場(以下「本件駐車場」という。)として整備するとともに、木造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建の住込み可能な居宅兼管理事務所一棟(床面積39.67平方メートル。以下「本件管理事務所」という。)を建築して、本件各土地において貸し駐車場の営業を開始し、平成六年一月一日現在、本件各土地は砂利敷きの駐車場として利用されていた(甲一二、一四、一五の1ないし13、一七、二三、乙一、弁論の全趣旨)。

3  ミニ保有税の申告等

原告は、平成六年五月三〇日、被告に対し、本件各土地について、取得価額を三五〇〇万円、固定資産税の課税標準となるべき価格を一億七九三五万二七五九円、ミニ保有税の課税標準額及び税額を零円とする平成六年度分のミニ保有税(以下「本件ミニ保有税」という。)の申告をするとともに、法附則三一条の五第二項、法六〇三条の二第一項に基づき、本件ミニ保有税につき納税義務免除認定申請をした。

4  本件売渡担保契約の合意解除

原告と寿寿企画は、平成六年九月一二日、本件売渡担保契約を合意解除した。

5  更正処分等

(一) 被告は、平成六年一〇月二八日、原告の申告に係る本件各土地の取得が法附則三一条の五第二項により準用される法五九三条二項に規定する「著しく低い価額による土地の取得」に当たるものと認定し、法附則三一条の五第二項、法五九三条二項及び法施行令五四条の三四第二項一号に基づき、本件ミニ保有税の課税標準額を一五億三八八九万五〇〇〇円、納付すべき税額を一九一三万六三〇〇円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)を行うとともに、法附則三一条の五第二項、法六〇九条一項に基づき、過少申告加算金を一九一万三六〇〇円とする過少申告加算金賦課決定(以下「本件賦課決定」といい、本件更正処分と併せて「本件各課税処分」という。)を行い、これらを原告に通知した。

(二) なお、被告は、本件更正処分をするに当たり、本件各土地の合計面積969.54平方メートルのうち、本件管理事務所の敷地39.67平方メートルについては非課税の住宅用地として認定し、これを控除した929.87平方メートルを課税対象面積としたものである(甲三、乙一、弁論の全趣旨)。

6  納税義務免除の否認

(一) 東京都知事は、平成七年四月二四日、東京都特別土地保有税審議会(以下「審議会」という。)に対し、前記3記載の本件ミニ保有税の納税義務の免除について諮問し、同日、審議会は、本件各土地が免除対象となる土地に該当しない旨、東京都知事に答申した(乙一、二、弁論の全趣旨)。

(二) 被告は、平成七年四月二七日、本件ミニ保有税の納税義務免除認定申請について、その納税義務を免除しない旨の決定(以下「本件否認処分」という。)をし、その旨原告に通知した。

7  審査請求に対する裁決

(一) 原告は、本件各課税処分を不服として、平成六年一二月一五日、東京都知事に対し審査請求をしたが、同知事は、平成九年三月二八日、右審査請求を棄却する旨の裁決をした。

(二) 原告は、本件否認処分を不服として、平成七年六月二六日、東京都知事に対し審査請求をしたが、同知事は、平成九年一〇月六日、右審査請求を棄却する旨の裁決をした(弁論の全趣旨)。

8  減額更正処分等

(一) 被告は、本訴が提起された後である平成一〇年三月一三日、本件ミニ保有税について、課税標準額を一一億七〇〇八万二〇〇〇円、納付すべき税額を一三九七万二九〇〇円とする減額更正処分(以下「本件減額更正処分」という。)をし、これに伴い過少申告加算金を一三九万七二〇〇円とする過少申告加算金変更決定(以下「本件変更決定」といい、本件減額更正処分と併せて、「本件減額更正処分等」という。)を行い、これらを原告に通知した。

(二) 本件減額更正処分は、被告側において不動産鑑定業者に対し、原告が本件各土地を取得した平成三年一月三〇日当時における本件各土地の正常価格の鑑定を依頼したところ、右価格を一二億二〇〇〇万円とする鑑定結果(以下、この鑑定を「本件鑑定」という。)が得られたため、右価額をもって原告が取得した当時における本件各土地の取得のために通常要する価額と認め、右価額に本件各土地の合計面積969.54平方メートルに占める課税対象面積929.87平方メートル(本件各土地の合計面積から非課税の住宅用地と認定した本件管理事務所の敷地39.67平方メートルを控除したもの)の割合を乗じて得られた一一億七〇〇八万二〇〇〇円(法二〇条の四の二第一項本文に基づき一〇〇〇円未満切捨て)を、本件ミニ保有税の課税標準額としたものである(乙三、乙四、弁論の全趣旨)。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

1  本件各課税処分の取消請求について

(一) 原告による本件各土地の取得が法附則三一条の五第二項により準用される法五九三条二項の「著しく低い価額による土地の取得」に該当するかどうか(争点1―(一))

(被告の主張)

法五九三条二項にいう「著しく低い価額」とは、その取得の時において当該土地の取得のために通常要する価額からみて相当低い価額をいうものであるが、右の当該土地の取得のために通常要する価額とは、本件各土地のように担保権の付着した土地であっても、担保権の付着していない土地として、その土地の取得のために通常要する価額をいうものと解するのが相当である。

本件各土地は、売買により取得され、その取得価額が三五〇〇万円であるとされているが、本件各土地の平成三年度の固定資産課税台帳登録価格(合計一億四四六〇万六八五〇円)に照らしても、原告の本件各土地の取得価額が、その取得の時における本件各土地の取得のために通常要する価額からみて余りにも低い価額であることは明らかであり、原告による本件各土地の取得は、法五九三条二項の「著しく低い価額による土地の取得」に該当する。

(原告の主張)

原告が本件各土地を取得した当時、前記二1記載のとおり、本件各土地には多額の担保権が設定されていたが、債務者である寿寿企画は当時多額の負債を抱え、債務の引き当てとなる財産は本件各土地しかなく、本件各土地に設定された担保権が実行されることはほぼ確実と予測された。原告は、本件各土地が右のように担保権の負担付きの物件であることを考慮した上で、寿寿企画に対して三五〇〇万円を融資することとし、その売渡担保として本件各土地を三五〇〇万円で取得したのである。

本件各土地を経済的合理的な通常人が取得するならば、当然のことながら、このような担保権の負担付きの物件であることが前提とされるのであって、原告の本件各土地の取得価額三五〇〇万円は、その取得の時における本件各土地の取得のために通常要する価額であり、原告による本件各土地の取得は、法五九三条二項の「著しく低い価額による土地の取得」には該当しない。

(二) 原告による本件各土地の取得が法附則三一条の五第二項により準用される法五九三条二項の「著しく低い価額による土地の取得」に該当する場合、法施行令五四条の三四第二項一号の「その取得の時における当該土地の取得のために通常要する価額」はいくらであるか(争点1―(二))

(被告の主張)

本件鑑定の結果によれば、原告が本件各土地を取得した平成三年一月三〇日の時点における本件各土地の正常価格は一二億二〇〇〇万円とされており、右の鑑定評価額をもって、原告が本件各土地を取得した時における本件各土地の取得のために通常要する価額とするのが相当である。

(原告の主張)

被告の右主張は争う。

バブル崩壊後の地価下落により、本件各土地の時価は、平成六年六月一〇日現在三億九一〇〇万円となっており、本件各土地について、右の時価と著しくかけ離れた価額を課税標準額として更正処分を行うことは、社会的相当性を逸脱するもので、違法というべきである。

(三) ミニ保有税の納税義務が免除されるべき土地について同税の更正処分を行うことは許されないかどうか(争点1―(三))

(原告の主張)

法の規定の上では、ミニ保有税の更正処分と納税義務の免除とは別の制度として規定されているが、実際には、これらは関連して運用されており、ミニ保有税の納税義務が免除される土地について同税の更正処分はされていない。このような運用の実態に照らせば、ミニ保有税の納税義務が免除されるべき土地について同税の更正処分を行うことは許されないというべきである。

本件各土地は、本来、ミニ保有税の納税義務の免除の対象となるべきものであるから、本件各土地について同税の更正処分を行うことは許されず、本件更正処分は違法というべきである。

(被告の主張)

ミニ保有税の更正処分と納税義務の免除とは、別個の制度であり、それぞれの処分の適否は、それぞれ法の定める要件に適合しているか否かによって決すべきものである。しかして、本件各課税処分は、法の要件に適合するものであり、適法である。

(四) 本件ミニ保有税の申告に係る税額に誤りがあったとした場合、右誤りがあったことについて正当な理由があるかどうか(争点1―(四))

(原告の主張)

仮に原告がした本件ミニ保有税の申告に係る税額に誤りがあったとしても、右誤りがあったことについては、以下のとおり正当な理由があったというべきである。

すなわち、原告は、平成六年九月二二日及び同月二八日に、東京都文京都税事務所の担当職員から、本件駐車場について舗装をすれば税金はかからない旨の電話連絡を受け、その時初めてミニ保有税の納税義務の免除を受けるためには砂利舗装では足りず、アスファルト舗装等が必要なことを知った。しかしながら、原告は、既にその時点において、本件各土地を合意解除により寿寿企画に返還しており、アスファルト舗装をなそうにもなし得ない状況にあった。原告は本件ミニ保有税の申告納付期限内である平成六年五月三〇日に納付申告書及び納税義務免除認定申請書を提出していたのであるから、被告から連絡がもっと速やかになされていたならば、原告としては納税義務の免除のために必要な措置をとり得ていたものである。ミニ保有税の納税義務が免除されるべき土地について同税の更正処分を行うことが許されないことは、前記(三)(原告の主張)記載のとおりであるが、右に述べたような本件の事情の下では、原告が申告を誤ったことについては正当な理由があるものと認めるのが相当である。

したがって、本件においては、原告から過少申告加算金を徴収することは許されず、本件賦課決定は違法というべきである。

(被告の主張)

法六〇九条一項にいう「正当な理由」とは、申告時における通達等が申告後に変更になった場合等をいうものと解されており、原告がミニ保有税の納税義務の免除要件を知らなかったことや被告の職員が事前に右免除要件を知らせなかったことは、何ら右の「正当な理由」に該当するものではないから、原告の主張は失当である。

2  本件否認処分の取消請求について

(一) 本件各土地が免除認定の基準日である平成六年一月一日現在において、法附則三一条の五第二項により準用される法六〇三条の二第一項二号に規定する恒久的な利用に供される特定施設の用に供する土地と認められるかどうか、具体的には、本件駐車場が右の恒久的な利用に供される特定施設に係る基準の一つとして、法施行令五四条の四七第二項一号が定める「その整備の状況が同一又は類似の用途に供される施設について通常必要とされる整備の水準と同程度の水準に達しているものであること」という基準に適合するものであったかどうか(争点2―(一))

(原告の主張)

ヒューヴェルは、約三週間ほどの工事期間と約六九〇万円の費用をかけて、本件各土地を砂利舗装し、ロープで駐車スペースを区画し、駐車ナンバープレートを埋め込んで駐車場として整備し、さらに、本件管理事務所を建築して、同建物に管理人を数名配し、平成六年一月一日現在、本件各土地を営業用駐車場として使用していたものである。

免除対象となる土地の認定については、昭和五三年四月一日付けで自治省税務局固定資産税課長による内かん(以下「課長内かん」という。)が発せられており、右内かんには、駐車場については、①一定の工作物により駐車場の範囲が特定され、かつ、駐車するために必要な舗装等の整備がされていること、②継続的に駐車場として利用されており、かつ、適切な管理が行われていること、③ピーク時における駐車台数が収容定数のおおむね五割以上であることを免除認定の基準として運用すべき旨が記載されているところ、本件駐車場は、アスファルト等により舗装されてこそいないが、その他はすべて満たされている。そして、本件駐車場は、アスファルトで舗装されていないものの、砂利が敷かれ、管理事務所も設けられていることをも考慮すれば、それは、駐車場として、法施行令五四条の四七第二項一号に定める「通常必要とされる整備の水準」に達しているものというべきである。

したがって、本件各土地は、免除認定の基準日である平成六年一月一日現在において、法附則三一条の五第二項により準用される法六〇三条の二第一項二号に規定する恒久的な利用に供される特定施設の用に供する土地に該当し、本件ミニ保有税の納税義務は免除されるべきである。

被告は、課長内かんのうち駐車場の要件に関する①の「舗装等」とは、アスファルト、コンクリート等で舗装されていることをいうものであり、砂利敷きはこれに含まれないと解されるとして、本件駐車場の整備状況が法施行令五四条の四七第二項一号に定める「通常必要とされる整備の水準」に達していないと主張する。しかしながら、課長内かんは法規ではないし、それに法の解釈が拘束されるものではない。しかも、課長内かんは「駐車するために必要な舗装等の整備」を要するとしているだけであって、アスファルト等で舗装されていること自体を要件としているものではない。整備水準の高低は、単にアスファルト等で舗装されているかどうかだけでなく、管理事務所を伴っているかどうかをも考慮して総合的に判断されなければならないのであって、被告の主張は理由がない。

(被告の主張)

法六〇三条の二第一項は、最終的な需要に供されていることが明確な土地のみを納税義務免除の対象とすることとして、免除対象土地について外形的、客観的基準を導入したものであるが、このような免除制度に関する法の趣旨からすれば、特定施設に係る納税義務免除の基準として、法施行令五四条の四七第二項が定める整備状況に係る「通常必要とされる整備の水準」についても、外形的、客観的にその土地の利用が最終的な需要に供されていることが明らかな場合をいうものと解すべきである。

これを特定施設である平面式駐車場についていえば、右平面式駐車場の場合には、立体式駐車場と比較すると、その利用が最終的な需要に供されているものとしての利用なのか、将来の売買を見越して仮の利用に供されているにすぎないのかの判断に困難を来す場合が多いから、これを明らかに区別することができるように、右の「通常必要とされる整備の水準」に達しているといえるためにはアスファルトあるいはコンクリート等により舗装がされていることを必要とすると解するのが相当である。

課長内かんは、駐車場に係る具体的な免除認定の基準の一つとして、「駐車するために必要な舗装等の整備がされていること」をあげているが、これは、右に述べたような趣旨によるものであり、右の「舗装等」とは、アスファルト、コンクリート等で舗装されていることをいうものであり、砂利敷きはこれに含まれないと解されているのである。

本件各土地は、基準日には本件駐車場として使用されていたが、本件駐車場は砂利敷きであって、アスファルトとかコンクリートによる舗装はされておらず、法施行令五四条の四七第二項一号が定める「通常必要とされる整備の水準」に達しているとはいえないから、本件各土地は、法六〇三条の二第一項二号の定める免除対象となる土地には該当しないものである。

(二) 本件否認処分にはその理由の提示を欠く手続上の瑕疵があるかどうか(争点2―(二))

(原告の主張)

行政手続法八条一項及び東京都行政手続条例(以下「行政手続条例」という。)八条一項は、「行政庁は、申請により求められた許認可等を拒否する処分をする場合には、申請者に対し、同時に、当該処分の理由を示さなければならない」と定めており、その趣旨は行政庁の判断の合理性を担保し、その恣意の抑制を図るとともに、申請者に対する不服申立ての便宜を図ることにあるところ、この趣旨は特別土地保有税の納税義務免除認定についても当然に妥当するものである。

しかるに、本件否認処分の通知には、適用法条が摘示されているのみで、その具体的な理由は明らかにされていない。かかる本件否認処分は、理由の提示を欠くものであり、手続上の瑕疵があるものとして取消しを免れない。

(被告の主張)

法一八条の四第一項及び都税条例一二条の二第一項により、原告の主張する行政手続法及び行政手続条例の条項は、地方税に関する法令及び都税条例の規定に基づく処分については適用されないこととなっているから、原告の主張は失当である。

(三) 審議会の審議手続に本件否認処分を違法ならしめる瑕疵があるかどうか(争点2―(三))

(原告の主張)

特別土地保有税の納税義務の免除認定を行うに当たっては、特別土地保有税審議会の審議を経なければならないとされているところ(法六〇三条の二第四項、都税条例一五三条の二第四項)、その趣旨は、特別土地保有税の納税義務の免除認定の中立、公正を担保し、かつ、その慎重な取扱いを期するためにほかならない。しかるに、原告には、原告の免除認定申請についていつ審議会が開催され、どのような審議がなされたのか全く知らされていない。

そもそも、法が特別土地保有税審議会の審議を経ることを要請した趣旨及び憲法の適正手続保障の見地にかんがみるならば、少なくとも審議会の場において申請人である原告の意見聴取ないし弁明の機会が保障されてしかるべきであるし、原告には審議会において原告の申請がどのように取り扱われたのかを知る権利がある。これらが全く保障されることなくなされた審議会の審議手続には、本件否認処分を違法ならしめる瑕疵があるというべきである。

(被告の主張)

法及び都税条例は、市町村長(都税事務所長)が法六〇三条の二第一項の認定を行うに際し、当該認定行為の中立、公正を担保し、かつ、その慎重な取扱いを期する趣旨から、特別土地保有税審議会の議を経なければならないと定めているが、同審議会において、申請者に対し意見聴取、弁明の機会を与えるなどの手続をとることまで法及び都税条例は定めていないのであるから、そのような手続をとらなかったからといって、何ら手続上の瑕疵があるということにはならない。

第三  当裁判所の判断

一  本件各課税処分の取消請求について

1  争点1―(一)(原告による本件各土地の取得が法附則三一条の五第二項により準用される法五九三条二項の「著しく低い価額による土地の取得」に該当するかどうか)について

(一) 前記第二の一2記載のとおり、ミニ保有税の課税標準は、「土地の取得価額」とされており(法附則三一条の五第二項、法五九三条一項)、「無償又は著しく低い価額により取得された土地」については、「その取得の時における当該土地の取得のために通常要する価額」を取得価額とみなすものとされている(法附則三一条の五第二項、法五九三条二項、法施行令五四条の三四第二項一号)。

ところで、特別土地保有税のうち土地の取得に対して課するものは、流通税的性格を有し、土地の保有に対して課するものを財産税的性格を有するが、特別土地保有税は、その土地がもたらすであろう収益やこれを処分することにより得られるであろう利益等に着目して課されるものではなく、土地の投機的取引を抑制し、地価の安定を図るとともに、土地の供給を促進することを目的として、土地の移転自体ないし土地の移転後当該土地を引き続き保有すること自体に着目して課税されるものであり、この観点及び右各規定の文理からすれば、法附則三一条の五第二項により準用される法五九三条一、二項にいう「土地」とは、抵当権等の担保権が設定されている場合においても、担保権の設定による減価を考慮した土地の実質的な価値を意味するものではなく、当該担保権を捨象した土地自体を意味するものと解すべきことは明らかというべきである。したがって、右の「当該土地の取得のために通常要する価額」とは、担保権が設定されている土地にあっても、当該土地に担保権が設定されていないとした場合の当該土地の客観的交換価値を示す時価、具体的には、正常な条件の下において成立する当該土地の取引価格をいうものであり、特定の土地の取得が「著しく低い価額による土地の取得」に該当するかどうかは、その取得価額が、右の意味の当該土地の時価と比較して著しく低いものであるかどうかによって判断すべきものと解される。

(二) そこで、右の見地に立って、原告による本件各土地の取得が法附則三一条の五第二項により準用される法五九三条二項の「著しく低い価額による土地の取得」に該当するか否かについて検討するに、前記第二の二1記載のとおり、原告は、平成三年一月三〇日、本件売渡担保契約に基づき代金三五〇〇万円で本件各土地を取得したものであり、他方、弁論の全趣旨によれば、本件各土地の平成三年度の固定資産課税台帳の登録価格の合計額は一億四四六〇万六八五〇円であることが認められ、右の固定資産課税台帳の登録価格に照らしてみただけでも、原告の本件各土地の取得価額が、その取得の時における本件各土地の取得のために通常要する価額に比して著しく低額であることは明らかである(なお、右の本件各土地の取得のために通常要する価額が一二億二〇〇〇万円と認められることは、後記2で認定、説示するとおりである。)。

(三) 原告は、本件各土地には原告がこれを取得した当時多額の担保権が設定され、これらの担保権が実行されることはほぼ確実といえる状況にあったものであり、これを前提とすれば、原告の本件各土地の取得価額三五〇〇万円は、その取得の時における本件各土地の取得のために通常要する価額であって、原告による本件各土地の取得は、法五九三条二項の「著しく低い価額による土地の取得」には該当しない旨主張する。

しかしながら、前示のとおり、担保権が設定されている土地の場合であっても、法五九三条二項の「当該土地の取得のために通常要する価額」とは、担保権が設定された状態におけるその土地の客観的交換価値を示す時価ではなく、当該土地に担保権が設定されていないとした場合の当該土地の客観的交換価値を示す時価を意味するものであり、本件各土地の取得が「著しく低い価額による土地の取得」に該当するかどうかは、その取得価額三五〇〇万円が、右の意味の当該土地の時価と比較して著しく低いものであるかどうかによって判断すべきものである。これと異なる見解に立つ原告の右主張は失当である。

(四) したがって、原告による本件各土地の取得は、法附則三一条の五第二項により準用される法五九三条二項の「著しく低い価額による土地の取得」に該当するものというべきである。

2  争点1―(二)(原告による本件各土地の取得が法附則三一条の五第二項により準用される法五九三条二項の「著しく低い価額による土地の取得」に該当する場合、法施行令五四条の三四第二項一号の「その取得の時における当該土地の取得のために通常要する価額」はいくらであるか)について

(一) 前記1(一)で説示したとおり、法施行令五四条の三四第二項一号の「当該土地の取得のために通常要する価額」とは、担保権が設定されている土地であっても、当該土地に担保権が設定されていないとした場合の当該土地の客観的交換価値を示す時価をいうものであるところ、前記第二の二8(二)記載のとおり、被告は、原告が本件各土地を取得した平成三年一月三〇日当時における本件各土地の正常価格を一二億二〇〇〇万円とする本件鑑定に基づき本件ミニ保有税の課税標準額を算定し、本件減額更正処分を行ったものである。

(二) そこで、本件鑑定の当否について検討するに、証拠(甲六ないし一一、一七、乙三)及び弁論の全趣旨によれば、本件各土地は、営団地下鉄有楽町線護国寺駅の南西方約六七〇メートル(道路距離)に位置し、通称「目白通り」と「不忍通り」に挾まれた比較的閑静な住宅地域の中にある面積合計969.54平方メートルの一団の宅地であること、本件各土地は、北側で幅員約3.5メートルの緩傾斜の舗装区道(建築基準法四二条二項に規定する道路)に間口約三三メートル(奥行最長約四四メートル)で接面し、東側で幅員約3.5メートルないし3.7メートルの舗装区道(建築基準法四二条二項に規定する道路)に間口約二〇メートル(奥行最長約三三メートル)で等高に接面する、平坦な逆L字型の角地であること、本件鑑定においては、公示価格を基準とした価格との均衡に留意の上、取引事例比較法により、本件各土地の近隣地域における幅員四メートルの舗装区道に面した一画地の規模が二〇〇平方メートル程度の戸建住宅地の価格時点(平成三年一月三〇日)における標準価格を一平方メートル当たり一四〇万円と査定し、右の標準的な画地と本件各土地の価格形成要因を比較し、本件各土地が道路の系統・連続性等において劣ること、本件各土地が不整形地であることなどを考慮して格差修正率を九〇パーセントとし、本件各土地の比準価格を一二億二〇〇〇万円(一平方メートル当たり一二六万円)と査定したこと、また、本件鑑定においては、開発法により、本件各土地を開発し、鉄筋コンクリート造地上四階建の共同住宅を建設して分譲する場合を想定して、本件各土地の価格を一〇億四〇〇〇万円(一平方メートル当たり一〇七万円)と査定したこと、そして、本件鑑定においては、右の取引事例比較法による比準価格と開発法による価格を比較、検討した結果、市場性を反映した取引事例比較法による比準価格を重視してこれを採用し、本件各土地の鑑定評価額(平成三年一月三〇日の時点における正常価格)を一二億二〇〇〇万円と決定したことが認められる。

(三) 右認定事実によれば、本件鑑定の鑑定評価の方法、過程に特段不合理な点は認められず、他に本件鑑定の結果を左右するに足りる証拠は存しないから、平成三年一月三〇日の時点における本件各土地の時価、すなわち、本件各土地の取得のために通常要する価額は、本件鑑定の結果を採用して、一二億二〇〇〇万円と認めるのが相当である。

(四) 原告は、バブル崩壊後の地価下落により、本件各土地の時価は、平成六年六月一〇日現在三億九一〇〇万円となっており、かかる本件各土地について、右の時価と著しくかけ離れた価額を課税標準額として更正処分を行うことは、社会的相当性を逸脱するもので、違法というべきである旨主張する。

しかしながら、著しく低い価額により取得された土地について、その取得の時における当該土地の取得のために通常要する価額を取得価額とみなして、これを課税標準としてミニ保有税を課するのは、法の定めるところであり、本件各土地の取得後に原告の主張するような地価の大幅な下落があったとしても、かかる法の規定に基づいて行われた本件更正処分(ただし、本件減額更正処分により減額された後のもの)が社会的相当性を逸脱して違法であるということはできない。

したがって、原告の右主張は、採用することができない。

3  争点1―(三)(ミニ保有税の納税義務が免除されるべき土地について同税の更正処分を行うことは許されないかどうか)について

(一) 原告は、ミニ保有税の納税義務が免除されるべき土地について同税の更正処分を行うことは許されないとして、同税の納税義務免除の対象となるべき本件各土地について行われた本件更正処分は違法である旨主張する。

(二) しかしながら、ミニ保有税の更正処分は、申告書又は修正申告書の提出があった場合において当該申告書又は修正申告書に係る課税標準額又はその税額が課税処分庁の調査したところと異なるときなどにおいて、課税処分庁がその課税標準額又は税額を増減してその額を確定する処分であり(法附則三一条の五第二項、法六〇六条)、他方、法附則三一条の五第二項により準用される法六〇三条の二等において規定するミニ保有税の納税義務の免除は、土地の保有という課税要件に該当する事実があることによって発生した納税義務について、一定の場合にこれを免除する制度であって、両者がその趣旨、目的を異にする別個の制度であることは明らかであり、ミニ保有税の納税義務が免除されるべき土地について同税の更正処分を行うことを禁ずる法の規定は存しない。

(三) ミニ保有税の納税義務が免除されるべき土地について同税の更正処分を行うことは許されないとする原告の前記主張は、独自の見解というほかなく、採用することができない。

4  争点1―(四)(本件ミニ保有税の申告に係る税額に誤りがあったとした場合、右誤りがあったことについて正当な理由があるかどうか)について

(一) 前記1、2で説示したところを前提として、本件ミニ保有税の課税標準額及び納付すべき税額を計算すると、その金額は、前記第二の二8記載のとおり、課税標準額が一一億七〇〇八万二〇〇〇円、納付すべき税額が一三九七万二九〇〇円となるので、本件ミニ保有税の税額を零円とした原告の申告については、その申告に係る税額に誤りがあったことになるところ、原告は、前記第二の三1(四)(原告の主張)記載のとおり、納税義務の免除に係る被告からの連絡がもっと速やかになされていたならば、原告としては納税義務の免除のために必要な措置をとり得ていたのであるから、右誤りがあったことについては、正当な理由がある旨主張する。

(二) しかしながら、前記3で説示したとおり、ミニ保有税の更正処分と同税の納税義務の免除は、その趣旨、目的を異にする別個の制度であり、原告の主張する事実は、原告の申告に係る税額に誤りがあったことについて正当な理由があることを根拠付けるものでないことは明らかである。

また、他に右誤りがあったことについて正当な理由があったとする事情を認めるに足りる証拠はない。

(三) したがって、原告の申告に係る税額に誤りがあったことについて正当な理由があったとする原告の主張は、採用することができない。

5  以上によれば、本件各土地を取得するために通常要する価額を一二億二〇〇〇万円とし、これに基づき課税標準額を計算して行った本件更正処分(ただし、本件減額更生処分により一部減額された後のもの)及びこれに伴い法六〇九条一項に基づき過少申告加算金を賦課した本件賦課決定(ただし、本件変更決定により一部減額された後のもの)は、適法というべきであり、これらの取消しを求める原告の請求は理由がないというべきである。

二  本件否認処分の取消請求について

1  争点2―(一)(本件各土地が免除認定の基準日である平成六年一月一日現在において、法附則三一条の五第二項により準用される法六〇三条の二第一項二号に規定する恒久的な利用に供される特定施設の用に供する土地と認められるかどうか、具体的には、本件駐車場が右の恒久的な利用に供される特定施設に係る基準の一つとして、法施行令五四条の四七第二項一号が定める「その整備の状況が同一又は類似の用途に供される施設について通常必要とされる整備の水準と同程度の水準に達しているものであること」という基準に適合するものであったかどうか)について

(一) 特別土地保有税は、土地の取得及び保有に伴う費用を増大させることにより、土地の投機的取引を抑制し、地価の安定を図るとともに、土地の供給を促進することを目的として、創設されたものであるが、法は、既に社会通念上相当程度の利用がされ、最終的な需要に供されていると認められるような土地についてまで、特別土地保有税を課するのは、同税の性格からみて適当でないという考慮から、法六〇三条の二において右のような土地について納税義務を免除する制度を設けている。そして、右の制度の趣旨からすれば、未利用の土地はもとより、将来の売買等を見越して仮の利用に供されているにすぎない土地については、納税義務の免除の対象とすべきでないことになるが、具体的な土地について、それが最終的な需要に供されているものであるか、将来の売買等を見越して仮の利用に供されているにすぎないものであるかの認定は、相当に困難を伴うものであるから、その具体的運用における不公平を避けるため、法は、前記第二の一3記載のとおり、外形的、客観的な基準を導入し、社会通念上相当程度の利用がされていることが明確である土地のみを納税義務の免除の対象とすることとしたものである。

そして、この理は、ミニ保有税についても妥当するものである。

(二)  右のような納税義務免除制度に関する法の趣旨からすれば、恒久的な利用に供される特定施設に係る基準の一つとして、法施行令五四条の四七第二項一号が定める「その整備の状況が同一又は類似の用途に供される施設について通常必要とされる整備の水準と同程度の水準に達しているものであること」という要件は、当該特定施設の整備の状況が、外形的、客観的にみて恒久的な利用に供されるものと認め得る整備水準に達していることを要することを明らかにしたものと解される。

本件では特定施設である平面式駐車場が法施行令五四条の四七第二項一号が定める要件を満たすものかどうかが問題になっているのであるが、それが土地自体の利用を主たる目的とするという特質を有することを考慮し、右規定の趣旨に照らしてみれば、当該平面式駐車場が同号の「通常必要とされる整備の水準と同程度の水準に達しているものであること」という要件を満たすといえるためには、課長内かんの定めるとおり、一定の工作物により駐車場の範囲が特定され、かつ、駐車するため必要な舗装等の整備がされていることを要するものであり、また、駐車するために必要な舗装等の整備がされているといえるためには、特段の事情がない限り、駐車用地部分について砂利敷きがされているだけでは足りず、アスファルト、コンクリート等によって舗装されていることを要するものと解するのが相当である。

(三) そこで、右の見地に立って、本件駐車場についてみてみるに、前記第二の二2記載の事実と証拠(甲一二、一五の1ないし11、一七、二三、乙一)及び弁論の全趣旨によれば、ヒューヴェルは、平成五年一一月二六日、営業用駐車場設置及び普通建物所有の目的で原告から本件各土地を賃借したが、賃貸借契約を締結した時点では、本件各土地は更地で草が生い茂っていた状態であったため、同社は、業者に依頼して、草を抜き、ブルドーザー等によって土地の表面を平らにならして地面を固め、さらに道路からの進入口を設置する工事を行って本件各土地を造成し、その造成工事が終了した後、本件各土地に砂利を敷き詰めたこと、その後、駐車スペースを区画するため、ロープをピンで打ち込み、各区画に木の板で作成した駐車ナンバープレートを埋め込む作業が行われ、これにより、本件各土地は、その後に建築工事が行われた本件管理事務所の周辺及び通路部分を除き、すべて駐車スペースとして区画され、駐車可能台数は合計三二台であったこと、さらに、ヒューヴェルは、人が住み込んで駐車場の管理が行えるよう、業者に依頼して、基礎工事を行った上で、プレハブ式の木造亜鉛メッキ鋼板葺平屋建の本件管理事務所(床面積39.67平方メートル)を建築したこと、これらの本件駐車場の整備や本件管理事務所の建築工事に要した期間は約三週間で、その費用は約六九〇万円であったこと、以上の経過により、本件各土地は、本件ミニ保有税の免除認定の基準日である平成六年一月一日現在、砂利敷の平面式駐車場として整備され、貸し駐車場として利用されていたことが認められる。

右認定のとおり、本件駐車場は、基準日現在、砂利敷の平面式駐車場として整備されていたものであって、アスファルト又はコンクリートによる舗装はされていなかったものである。約六九〇万円の費用をかけて本件駐車場の整備が行われ、住み込み可能な本件管理事務所が建築されていたことは、右認定のとおりであるが、この事実をもって、本件駐車場の整備状況が、恒久的な利用に供される平面式駐車場について通常必要とされる整備の水準と同程度の水準に達しているものと認めるべき特段の事情があるということはできず、他に右特段の事情があるものと認めるに足りる証拠はない。

(四) したがって、本件駐車場は、法施行令五四条の四七第二項一号が定める「その整備の状況が同一又は類似の用途に供される施設について通常必要とされる整備の水準と同程度の水準に達しているものであること」という基準に適合するものとは認められないから、本件各土地は、その余の要件について検討するまでもなく、法附則三一条の五第二項により準用される法六〇三条の二第一項二号に規定する免除対象となる土地には該当しないというべきである。

2  争点2―(二)(本件否認処分にはその理由の提示を欠く手続上の瑕疵があるかどうか)について

(一) 原告は、行政庁に対し許認可等を拒否する処分についての理由の提示を義務付けた行政手続法八条一項及び行政手続条例八条一項を援用して、本件否認処分には、その理由の提示を欠く手続上の瑕疵がある旨主張する。

(二) しかしながら、法一八条の四第一項及び都税条例一二条の二第一項により、行政手続法八条一項及び行政手続条例八条一項の規定は、地方税に関する法令及び都税条例の規定に基づく処分については適用されない旨規定されているのであるから、行政手続法及び行政手続条例の右各条項を援用して、本件否認処分には、その理由の提示を欠く手続上の瑕疵があるとする原告の主張は、失当というべきである。

3  争点2―(三)(審議会の審議手続に本件否認処分を違法ならしめる瑕疵があるか)について

(一) 原告は、審議会の審議手続において原告の意見聴取ないし弁明の機会等が保障されていなかったから、審議会の審議手続には本件否認処分を違法ならしめる瑕疵がある旨主張する。

(二) 法附則三一条の五第二項により準用される法六〇三条の二第四項は、市町村長が同条一項の認定を行うに際し、当該認定行為の中立、公正を担保し、かつ、その慎重な取扱いを期する趣旨から、特別土地保有税審議会の議を経なければならないと定めており、都税条例にも同旨の規定(同条例一五三条の二第四項)がおかれている。しかしながら、法及び都税条例は、特別土地保有税審議会の審議手続において、申請者に対し意見聴取や弁明の機会等を与えることまでは求めておらず、本件ミニ保有税の納税義務免除申請に関し、原告に対し意見聴取や弁明の機会等が与えられなかったからといって、審議会の審議手続に瑕疵があるということはできない。

したがって、原告の右主張は採用することができない。

4  以上によれば、本件ミニ保有税の納税義務の免除を認めなかった本件否認処分は適法というべきであり、その取消しを求める原告の請求は理由がないというべきである。

第四  結論

よって、原告の本件各請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用については、本訴提起後に本件減額更正処分等がされた経緯にかんがみ、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条、六二条を適用して、これを一〇分し、その三を被告の負担とし、その余を原告の負担とすることとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官青栁馨 裁判官増田稔 裁判官篠田賢治)

別紙<省略>

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